2016年10月5日水曜日

失敗に終わった「実験」の例 Scapeland

「一見(コンセプトアートなどから素直に想像)すると普通のゲームだが、実は隠された大きな秘密が……」といった感じで本筋を大胆にひっくり返すプロットは、どうも最近インディーゲーム界隈の隅っこのほうで静かに流行しているらしい。代表的な例としては Dr. Langeskov, The Tiger, and The Terribly Cursed Emerald: A Whirlwind Heist と Pony Island の2作だろうが(後者は筆者未プレイですが)、これらはあくまで成功した例だ。成功している限りにおいてはゲームがどのような展開をとろうとそれこそがそのゲームの本質なのであり、文句を言われる筋合いはない。とはいえ、それが失敗したら……それはまた結論が違ってくるだろう。

どうだろう、このほのぼの農場感あふれるバナーは

はじめの段落の時点ですでに言いたいことはだいたいお察しいただけたことだろうとは思うが、ともあれ Scapeland はいわば失敗に終わった「ひっくり返し系」の例として記憶されるべきゲームだ。
この手のゲームでネタバレは禁物だとお叱りをうけるかもしれないが、とにかくそのネタの部分がどうしようもなくダメダメなので、バレでもなんでも書かざるをえない。このことは先にお断りしておく。ようするに、Dr. Langeskovレビューのようにノリノリでネタに乗っかってしまっては、「だまされた」ユーザーにかえってお叱りをうけかねない程度の出来なのだ。

一見ほのぼの農業ゲーム
Scapeland はトレーラーやスクリーンショット、商品紹介文などをみれば「ほのぼの農業ゲーム」の類が想像できるようにされている。実際ある時期まではほのぼの農業ゲーム一般にみられるルーチン(収穫、種の購入、種まき、収穫、剰余利益で上ランクの種を購入……)をこなし、時を進めていくことになる。だが順風満帆にみえたほのぼの農場は突如として謎の軍隊に襲われ、主人公は逃避行を余儀なくされる。謎の軍隊の追跡を逃れ、どこかも知らぬ先へと逃げ続ける。これがこのゲームに隠された本筋であり、ゲーム本来の楽しみを損ないかねない重大なるネタバレでもある。とはいえ、ネタバレといってもたいしたネタがあるわけではない。主人公がなぜ追われているのか、なぜ逃げねばならないのか。主人公を追う謎の軍隊はいったい何者なのか、何が目的なのか。こういった謎は一切明かされることがない。しかしそれはあまりに退屈で、謎を追求したい好奇心よりも話の展開に飽きる方向に早々に天秤が傾いてしまう。

あまり好ましい表現ではないが、「専門学校の卒業作品レベル」とはこういうものをいうのだろう
なぜここまで堂々とネタバレをするかというと、この本筋のステルスゲームがどうしようもなくつまらないからだ。実際のところ、ステルスゲームというほど上等なものではない。画像のように黄色く表示されている兵士の視界に入らないよう動き、ときには物陰に入って巡回する兵士の視界から隠れたり、反対側に石を投げて兵士の視界を他方に向けたあいだに通り抜けたり、立ち止まって動かない兵士の背後を足音を立てないよう歩いて通り抜けたりといった具合で、敵の無力化などこちらから攻撃的に抵抗できる手段はない。言い換えればオブジェクト回避パズルのようなものだ。これがただひたすら退屈なうえに無駄に難易度が高く、チェックポイントもないので失敗して最初からやり直しの順を繰り返すとたちまちストレスが爆発する。

うまく撮影できていないが、このあとスライディングして横木を避ける
苛立ちを抑えながらもかなりの忍耐力を動員して最初のステルスマップを抜けると、次は3レーンの道を左右への移動とジャンプ・スライディングを駆使しながら走り抜けるアクションシーンに移る。これは反射神経が要求され、筆者のなによりの苦手分野ではあるのだが、似非ステルスゲームに対する苛立ちからの解放感も手伝って、前のマップよりはよほど面白く、ここへきてこのゲームに対する私のなかでの評価が一変したかに思えた。なるほどこういう形でさまざまなミニゲームに順番にチャレンジさせるのは実験的で面白い試みだと。しかしその期待はこのステージをクリアしたのちに見事に裏切られた。次のステージはまたもや似非ステルスゲームで、そのステルスの難易度もチェックポイントなしでクリアさせられる1マップの広さも増し増しであった。ここで10回ほど失敗を繰り返し、ついにステージの最終関門らしき場所までたどり着いたところでまたもや失敗して開始地点に戻された私はこのゲームをあきらめることにしたのだった。

そもそもの始まりは「ほのぼの農業ゲーム」というふんわりとした概念だが、実際のところこの「ほのぼの農業ゲーム」というジャンルは人気がありながらも制作が非常に難しいものらしい。というのも、多くの似たようなインディーゲームが欠点の山に埋もれて沈んでいくなかで、近作の Stardew Valley が唯一無二といっていいほど稀な成功例として大ヒットした事実がその証明となっている。Stardew Valley は長きにわたって多くの『牧場物語』ファンに待ち望まれながらもついぞ正しく生まれえなかった「ほのぼの農業ゲーム」がついに楽しく遊べる形となったゲームとして広く歓迎されたものだと一般に評されている。では、それに対して Scapeland はどうか? 需要に対して供給がいちじるしく乏しいこのジャンルの人気に付け込もうと考えた向きは一切なかったと胸を張って否定できるだろうか。実際にレビューやフォーラムなどで否定的な評価が下されているなかには、ゲーム進行に関しての困惑や、農業要素に対する期待を裏切られたというような思いからきているものが多い。ほのぼの農業ゲームだと思って5歳の子供に遊ばせていたら妙な展開になって子供がかんしゃくを起こしたというは実に悲しいし、それに対するデベロッパーの気まずげな返答も、みているこちらの胸まで苦しくなる。デベロッパーの 3100 games は Steam プラットフォームでのゲームのリリースはこれが初であるようだが、次があるならば、どうか今度の失敗に学び、ゲーム制作から逃げて奇策に走るようなことなく、問題に正面から――ほのぼの農業ゲーならほのぼの農業ゲーとして、あるいはミニゲーム集ならミニゲーム集として――取り組んでほしいものだ。

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