2016年4月5日火曜日

祭りの本質は準備の時間? 60 Seconds!

警報発令! 敵軍の核兵器着弾まであと60秒。市民のみなさんは生活必需品をもって大切なご家族ととともにただちに最寄のシェルターに避難してください。ですが60秒とは短い時間。生き残るために本当に必要なものを、あなたは正しく選べますか?

60 Seconds! は準備を整えて核シェルターに避難するまでの(あえて分類すれば)タクティカル・アクション的なプレ・アポカリプスの60秒間と、シェルターでの避難生活をナラティブなアドベンチャーおよびサバイバル・ストラテジーとして描写したポスト・アポカリプスな本編の二部に分けられたゲーム。そう、60秒とはあくまで避難のための時間であって、その後のシェルター生活を生き抜くために、あなたはその短い時間で必要なモノ/不要なモノを的確に判断しなければならない。



60 Seconds! のゲームとしての請求力は、やはり最初の60秒の避難アクションがほぼすべてといっても過言ではないだろう。このパートでは、シェルターでの生存に必要なものをシェルターの入り口からどんどん放り込んでいき、60秒経過時に入り口のそばにいられれば核爆発前にシェルターに飛び込んでセーフ。欲張りすぎて間に合わなければ核の炎に焼かれてアウト、という具合だ。
このアイテム運びだが、それぞれに重量、というかアイテム所持枠の消費数が設定されている。プレイヤー操る父親は一度に4枠分までアイテムを運ぶことができ、いっぱいになったらそれらをシェルターに放り込んで枠をリセットし、時間のある限り多くのアイテムを運び出すのが目的だ。たとえば水や缶詰は1枠だが、シェルターを賊から守るために重要なライフルは2枠、肥満気味の娘は3枠などと種類によって一度に持ち運べる量が設定されている。アレも欲しいコレも欲しい、でも家族の命は最優先で、とやっていると決定的に時間が足らないため、何度やっても思ったように完璧な準備はできず、そこはバランスよく練られて面白く設計されている。
このあたりは公式トレーラーや無数にあるプレイ動画の最初のほうをごらんなさい、なにせ避難パートだけならたったの60秒で済むのだから。小太りの父親があちらこちらと大慌てで走り回る姿は見ているだけでも楽しいでしょう?

一方で、その60秒が済んでからが長く苦しい本編だ。そう、運動不足で小太りなあなたがなぜ60秒も必死に全力で家の中を走り回らねばならなかったか? それは当然、核兵器による社会秩序崩壊後の世界を家族とともに生き延びるためである。いささか主客転倒の感もなくはないが、プレイ時間に占める割合を考えてもその事実は圧倒的だ。なにせサバイバルは長ければ数時間にも及ぶのに、その準備時間はたったの60秒なのだから(一応60秒の避難アクションだけをひたすら遊べるモードもあるにはあるが、結果が伴わない準備運動だけを繰り返していったい何が面白いのか?)。

問題はここからなのだが、その本編であるサバイバルモードがだらだらと長いわりに、ありていにいってあまり面白くない。This War of Mine などはアドベンチャーとサバイバル・ストラテジーとしての両面で傑作であり、比較対象としてどうしても頭に浮かんでしまうが、それを割り引いて考えても本作のサバイバル面はやはり面白くない。ここからはやや長くなるので面倒な方は結論まで読み飛ばしてください。

まずナラティブなアドベンチャーとしては、ただ面白みにかける文章を長々と読まされるだけでひたすら退屈。後述するようなストラテジーとしてのゲーム性を破壊するランダムイベントを除いては、同じような出来事の繰り返しで日を進めるのが苦痛。ゲーム内のキャラクターが退屈によって狂気に引き込まれるのはわかるけど、さすがにプレイヤーまで狂わせないでほしい。また「ダークなコメディ」などとうたっているが、放射線被曝でミュータント化だのというのはFalloutのように背景に一定の文脈があってこそブラックジョークとして成り立つわけで、考えもなしにそれらにただ乗りして唐突に巨大ゴキブリや五本足の牛を出したり娘を紫色の怪物に変異させたところで、単にナンセンスで不謹慎なだけで面白い話にはならない。もっとも開発者としてはゲーム後進国である極東の被曝国のことなど知らないだろうし謹慎する義理もなかろうが、ともあれ開発者のユーモアセンスには疑問符がつく。キャラクターが死んだら即日白骨死体となるシュールな絵も、一家そろって仲良く骨となれば面白い絵になったろうに、洋ゲーの決まりごとに負けて子供は死なずただ消え去るのみとあってはまったく自称「ダークコメディ」たる覚悟の程度が知れるというものだ。
日を追うごとに家族の様子がどんどんおかしくなっていくのは初見では楽しめる
サバイバル・ストラテジーとしてはどうか。どうにも根本的な設計思想として、ストラテジーとしての計画性に味付けするためにランダム性をもたせようとして失敗したような印象がある。第一に、水・食料以外のすべてのアイテムが1種につき1個しか保管できないシステムが根本的な間違いだと思う。スカベンジに出る際はお供として地図や道中の安全のためのガスマスク、武器などのアイテムを持ち出すことが推奨されているが、1種1個の制限のために外に持ち出しているあいだはそのアイテムがイベントなどで必要になっても使うことができないし、持ち出した道具は高い確率で壊れてしまう。道中で壊してしまったものと同じ道具を一度のスカベンジで入手することはないので、それが必要なアイテムであれば、またそれを得るためにスカベンジに出なければならなくなる。また、この1種1個の制限のためにスカベンジの結果がある程度予想できてしまい(既に持っているアイテムを拾ってくることはありえないので)、未知の結果を期待して待つ楽しみも薄くなってしまっている。
さらにはストラテジーとしての長期計画を許さない敵として立ちはだかるがごときランダムイベントの数々。ゲームクリアのためにはラジオをはじめ、さまざまな道具を備えてシナリオイベントを迎えなければならないのだが、豊富な種類をそろえていたらいたで、狙ったようにランダムイベントで容赦なく破壊されてしまう。この破壊イベント(地震や水害など)は複数のアイテムのうちから守ることを選んだ1種を除いてすべて破壊されてしまうイベントで、要するに揃えがよければよいほど困るイベントなのだが、これなどまるでイベントでの破壊を織り込んでスカベンジ時にアイテムを持ち出すことを強要されているようで、気づいてしまうとそのプレイスタイルの強要が不快でしかたない。
こうした問題は結局のところ、すべてストラテジーとしての設計の失敗という根本問題に行き着く。数周プレイしてみれば最後には、アイテムに1種1個の制限をかけ、ランダムイベントによる破壊まで導入しなければ、60日以上にもおよぶサバイバル・ストラテジーとしてのゲームバランスを設計できなかったのだろうと推測できてしまうのだ。
なかには賊が備蓄のすべてを奪い去っていく最悪のイベントも。これはさすがにやりすぎ
とまあさんざんこき下ろしてしまったが、あまり悪評を書かない方針であるところの当ブログがここまで書いたのは、すべて順調にいっていたうちのシェルターをこんなわけのわからないイベント一発で台無しにしてくれて腹が立ったためなのです。いや、たしかに銃はなかったですよ。でも斧があるでしょう? なんで缶詰1個も守れないんですか。いやほんと、今もスクリーンショット見るだけではらわたが煮えくり返りますよ。そうだ、個人ブログとは私怨を書き散らしても許される場であるはずだ。そうですよね? 許してください。すみませんでした。

結論としては、やはり60秒の避難パートにゲームとして光る部分の大半があり、繰り返しのプレイにはあまり堪えない作品といえる。また、日本語も公式サポートされているが、訳が変だったり文章が途中で途切れていたりと品質管理の面でも問題を感じる。点数をつけるとすれば、避難パートが9/10点、サバイバルパートが4/10点として、総合点が切り上げ7/10点といったところか。定価は980円と安く、低価格インディーの一発ネタとしては大変結構なゲームだ。ネタが良いだけにサバイバル・ストラテジー面の出来がいまひとつなのがただただ残念な作品だった。おすすめするかしないかの2択であれば、一応おすすめの範疇には入る作品。セールなどでどうぞ。

60 Seconds! ¥980 
システム要件
最低:
OS: Windows XP SP3 (32/64 bit) or later
プロセッサー: Intel Core™ 2 Duo 2.0+ GHz or an equivalent AMD CPU
メモリー: 2 GB RAM
グラフィック: nVidia GeForce 8800 GT or AMD Radeon HD2900 XT (with 512MB VRAM)
DirectX: Version 9.0c
ストレージ: 3 GB 利用可能
追記事項: Keyboard and mouse required, Microsoft Xbox 360 controller optional

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