2016年3月26日土曜日

Corrosion: Cold Winter Waiting にみるユーザビリティと没入感

どこか地方の田舎町 Deacon Oaks。閑静で平和なこの町は、一件の自動車事故をきっかけに変わってゆく。事故の被害者である男性は身元不詳で、何を問われても答えようとしない。 町外れに建つ無人の豪邸、Cold Winter Farm の名を除いては……。
Corrosion: Cold Winter Waiting はポイント&クリック形式のアドベンチャーゲーム。プレイヤーは保安官 Alex Truman としてこの事故の捜査のために Cold Winter Farm を訪れる。そこでお約束ながら地下階に閉じ込められてしまった主人公は、脱出口の探索を兼ねた捜査を開始するが、そこにあったのは謎の研究施設であり、おぞましい実験設備の備わるその施設から、予想だにしなかった世界的な陰謀の証拠が明かされてゆく……という筋書きでゲームは進む。



あなたが Corrosion をプレイしてみてまず最初に感じることは、アドベンチャーゲームとして操作性があまりに古臭いことだろう(なにせ3Dビューを採用しているのに、前に進むにもクリック、横を向くにもクリックという次第なのだから!)。次に感じるのはおそらくユーザビリティの不便さだ。例えば手記に書かれた情報からコンピュータに手動で日時と部屋名を入力し、監視カメラの記録を閲覧するなど、「今どき」のゲームであればフラグ管理で1クリックに省略されてしかるべき要素だろう。だがこうした不便を前にして開始5分で投げてしまってはもったいない。なぜならこの不便さこそ物語への入り口なのだから。
マウスカーソルをインタラクト領域に合わせるとポインタが赤くなる。この場合はクリックで前進

不便さからの没入感

これは以前からの持論なのだが、ストラテジーゲームの分野で使われる「学習曲線」概念1はこの手のアドベンチャーゲームにも適用できるのではないかと考えている。つまりポイント&クリック特有の単調なシステムに慣れ、ゲームの物語に没入できるようになるまでの時間に耐えられるか否か、である。Corrosion ではこうした一見時代遅れで面倒なシステムがその壁を乗り越える助けになっているように思う。
このゲームはいたるところで自分の頭で考えることを要求する。それは与えられた数字から導かねば得られないコンピュータのパスコードであったり、付箋に書かれた時間と部屋の名前を正しく入力して監視カメラの記録を閲覧することであったり、十数ページにわたる手記のなかから必要な単語を見つけて検索することであったりする。そうこうするうちにあなたはゲーム中に提示されるあらゆる情報に意味があることを理解し、画面内に表示される情報を注意深く観察するようになり、自然と物語の深い世界へと導かれていくのだ。
収集した情報から日時と部屋の名前を正しく入力しなければ、監視カメラの記録は閲覧できない
こうした仕掛けを採用した Corrosion は、確かに近年のアドベンチャーゲームとしては難易度が高い。だがその難しさの土台には興味深い物語があり、パズルをひとつ解くたびにその難しさに見合ったカタルシスを得られるはずだ。
また特筆すべきこととして、このような面倒な仕掛けは主に前半に集中しており、後半は過去に残された手記の単純な読解などにプレイ時間があてられることである。世界の裏を二分する陰謀の存在を学び、物語に興味を抱かせるうちにゲームシステムに慣れさせ、情報集めが苦でなくなったのちに答え合わせの時間が待っているというわけだ。これが開発者の意図した展開かは知らない。だが個人的にはプレイヤーの意識を物語に集中させる上でとてもうまく機能していると感じた。
とはいえこのフォントサイズの筆記体の文章を長々と読まされるのは少々難儀した
しかしながらこのゲーム、あるいは多くのポイント&クリックアドベンチャーが抱える問題として、最序盤のゴミ箱などは典型的だが、情報のありかがわからずに進行に詰まることがある。そうしたときに Walkthrough などを参照することは恥ではない。その際は自身の楽しみをふいにしないためにも、直接の解法には触れないように気をつけて、情報のありかだけを参照するよう心がけるべきだ。

これまでCorrosion: Cold Winter Waiting の面白さについて、特にその不便なユーザビリティと物語への没入感の奇妙な相乗性について着目して語ってきたが、日本語でこの記事を書いている上で言及すべきこのゲームの最大の問題点は、当然ながらゲームを構成する言語が英語であることだろう。些細な情報から答えを得たり、大量の手記を読み込んだりする上である程度の英語力は当然必要だ。そこはどうしようもないが、特に時間制限などもないので、物語に興味を持てれば英文をじっくり読み進めることもそう苦ではないはずだ。また、ホワイトボードなど一部はテクスチャの張替えが必要そうだが、手記などは置き換え可能なテキストが内部にあるはずで、日本語化も技術的には可能なのではないか。問題はその方法と翻訳にかかる労働力だが、これについては筆者個人で解決できる問題ではないのでご容赦を。

さて、今回ご紹介した Corrosion: Cold Winter Waiting はいかがだったろうか。 Steam にて定価は安めの798円で発売中なので、興味をもたれた方はセール時などに手にしてみてはいかがでしょうか。

Corrosion: Cold Winter Waiting [Enhanced Edition] ¥ 798
システム要件
最低:
OS: Windows 98/XP/Vista/7/8
プロセッサー: Dual Core 2 GHz
メモリー: 512 MB RAM
グラフィック: 128 MB DirectX compatible graphics card
DirectX: Version 9.0c
ストレージ: 700 MB 利用可能
サウンドカード: DirectX compatible sound card
追記事項: Display capable of 1280x720 resolution, mouse, and keyboard required
1: ゲームのプレイ時間を横軸に、ゲームをプレイして感じられる楽しさを縦軸にグラフにしたもの。多くはS字の伸びで表され、いかに初期のゲームシステム学習の時間を短く抑え、学習後に大幅に伸びる楽しさを提供できるかというゲームデザイン上の課題を考える際に用いられる

0 件のコメント:

コメントを投稿