本題に入る前に、筆者はとくにSFやスペース・オペラなどの宇宙モノを好んではいないということを明記しておく。あくまでパラドゲーマーとして、純粋にストラテジーゲームを楽しむために Stellaris をプレイしたものだ。また、筆者は歴史好きではあってもとりたてて西洋中世史好きなわけではない一方で、パラドゲーの中でもっとも長く遊んでいるのは Crusader Kings II であり、そのうえ Elder Kings や After the End など歴史性とは関係のない大型Modを導入してのプレイも楽しんでいる。これはつまり、バックグラウンドへの興味関心以前に CK2 の土台であるゲームシステムが根本的に優れていて、またそれが筆者の好みに合致している結果である。要するに、これからする Stellaris の話はあくまでグランド・ストラテジーとしてのゲーム性の話であるということを断っておきたい。
先に述べたとおり、Stellaris は由緒正しきグランド・ストラテジーの系譜を継ぐ正統なパラドゲーだ。グランド・ストラテジーとは何かというと、厳密には全プレイヤー同時進行式のターン制ストラテジーでありながら、ターンの最小単位を20年間における1時間、400年間における1日のように非常に細かく区切ることで、プレイしていてあたかもリアルタイム・ストラテジーであるかのような臨場感が感じられるという、パラドゲーが独自かつ伝統的に採用しているゲームシステムである。
しかしながら、本作は他のパラドゲーと大きく違う特色をもっている。それは未知の宇宙を舞台にしたことで、完璧な4Xストラテジーとして成立している点だ。他のパラドゲーは一般に史実を下地にしており、ストラテジーにおける4つのX――前回の記事でも触れたが、探検、(領土)拡張、(資源)活用、(敵の)殲滅、の4大要素――には部分的にしか対応していない。パラドゲーの中でもっとも4X的な Europa Universalis IV においても、新大陸全体の緯度が現実より少しばかり北に遷移していてブラジルへのアクセスが史実よりも容易になっている程度(豆知識です)の違いで、世界全体の地図は現実の世界地図とほぼ対応しているので(新大陸をランダム生成するDLCはいまいち評判がよくなかったりする)、探検といっても限定的なものでしかない。
一方で Stellaris は、ランダム生成される宇宙にプレイヤーであるあなた自身の国とAIが担当する国、あるいはマルチプレイであれば他のプレイヤーの国が、宇宙にランダムで配置されるいち星系のいち国家として同一の開始条件からスタートし、未知の宇宙を探検し(先行AI国の設定などあるにはあるが)、資源を集め、敵を殲滅し、領土を拡張していく、まさに4Xストラテジーそのものである点が今までのパラドゲーとは本質的に異なる。感覚的にはグランド・ストラテジーのシステムを用いた宇宙モノ Civilization と捉えてもいいかもしれない(Beyond Earth...?)。
デフォルト設定でスタートした直後の宇宙図(オブザーバーモードによる) |
たまげたゲーム中毒だなぁ…… |
Stellaris は純然たる4Xストラテジーではあるものの、従来のパラドゲーにおける現実の歴史のように、あくまでスペース・オペラ的なバックグラウンドを楽しむことがゲームデザインの基礎にあり、Civ シリーズのような学習と勝利の過程に発生するカタルシスそのものを目的としたゲーム1ではない。そのことは Stellaris の長所でもあり短所でもある。たとえばわかりやすい例として、Stellaris には開始時に自分の宇宙帝国を好きにデザインできる機能があるが、これは実に Stellaris のゲームデザインとマッチしており、ゲームの魅力のひとつを構成している。ゲームの側から用意された材料を組み合わせて自分好みの帝国を作れるのは楽しいし、それをそのまま実ゲームに用いてごく自然に遊べるのは輪にかけて楽しい。しかしながら Civ シリーズであればこのような機能は不向きだろう。なぜなら Civ においては同条件でのスタートから難易度を徐々に上げて攻略していき、難易度を客観的基準として自分の腕前が上昇していく過程を楽しむ一面があるので、いわゆるプレイヤーチートにつながりかねないそのような部分はModなどで補強すべきで、 Stellaris ほど気軽にアクセスできては楽しみが台無しというものだ。このことからも、Stellaris が Civ 式の楽しみ方からは一歩引いたところに向いたデザインであることがわかるだろう。
カスタム帝国の一例。ビッグ・ブラザーが(宇宙でも)あなたをみている |
開始時にどんな勢力でも固定で与えられる科学船・工作船・最低限の戦闘船団の3セット。Civ でいえば建設済みの首都に斥候・労働者・戦士がいるようなもので、Civ と違って常時なにかを生産し続けねばならないわけではない Stellaris では、初手生産に迷ったりせずにすむこの初期設定は大正解といえる。
まずやることは自星系の調査 |
しかしながら、500時間のプレイに耐えうる強度を目安とした場合、Stellaris はいくつかの問題を抱えている。まず4Xストラテジーでありながら、攻略・勝利そのものを目的としたプレイングには最適化されていないこと。ゲーム開始時に設定を変えることで難易度を上げることはできるが、そもそもゲームに習熟してオプションの項目の意味をよく理解できるレベルにならなければ適切な設定自体が困難だ。また、高難易度化の方法も人それぞれであるため、攻略それ自体には先述の Civ のような中毒性は生まれにくい。
そして現在のバージョンが抱えるゲーム自体の欠陥として、Stellaris は中盤以降の展開がだれる、というか、はっきりいっていまいち面白くない。現在のところ、勝利条件が制覇勝利と植民勝利(入植可能な惑星の4割に入植する目標で、AI数を思いっきり減らさない限り戦争はほぼ必須)の2種しかないうえに、制覇系勝利につきまとう、ある程度勝ち筋が見えてくると飽きてくるというありがちな問題を回避しようとする努力があまり感じられない。
戦力29k対23kの美麗な艦隊決戦。この頃が一番面白い |
ここまで来るともはやなにがなんだかわからない |
現状ふたつしか用意されていない勝利条件についてはどうか。たしかに異文化きわまる異星人たち相手に文化勝利や科学勝利などと勝利宣言するのもなんだかアレだが、外交勝利ぐらいはあってもいいのではないか。あるいはもっと別の何か――とにかく生産・入植スパムする以外の遊び方を中盤以降に用意してほしいものだ。
しかしながら、この程度の問題は CK2 や EU4 のDLC発売ペースであれば1,2本のDLCで追加・改善が終わるところだが、こうした点が改善されたとして、それだけで突然500時間分の強度を得られるか? そう考えると実に微妙なところだ。あるいは(DLC発売までは一般に評価の低かった)Civ5 のように、UI改善を含みゲーム性を一新する大型DLCを展開することもできるかもしれない。ここから先はもはやゲームデザイナーの考えることで、筆者の乏しい発想が及ばない範囲である。パラドゲー史上最高のスタートを切ることができた Stellaris だが、これが100時間で完結するゲームで終わらず500時間、1000時間と楽しめるゲームに育つかどうか。すべてはこれからの開発陣とユーザーのフィードバックにかかっている。筆者はいちパラドクシアンとしてその成功を祈念するものである。
1: 他にはEU4の琉球WCのような高難易度実績への挑戦など、このような受容のされかたをする傾向のあるストラテジーを私は個人的に「競技ストラテジー」と呼んでいる
1000時間越えは当たり前のゲームになりましたね・・・
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