2016年5月31日火曜日

面白いゲームを作るというのは叶わぬ願いか Wishmaster

人間は一般にすばらしい体験をした際はその話を他人と共有したくなるものらしい。それは私がブログを通じてその面白さの割にあまり知られていない海外ゲームを紹介している動機なのかもしれない。その一方で、あまりにひどい体験をしてしまった際も、その体験をやはり共有したい欲にかられるようだ。他の多くの人であれば近しい友人などを相手に話すことで、すばらしい体験であれば感動話に、ひどい体験であれば同情を求めたり笑い話にしたりなどして、比較的軽い労力でその欲を昇華するのだろうが、私には残念ながら友人と呼べる人間がひとりとしていないので、こうしてブログに書き散らしているのである。

さて、今回とりあげるのは Wishmaster というパズルゲームだ。私はパズルゲームにはあまり詳しくないのだが、ジャンルとしては3マッチ系というそうで、同じ絵柄のコマを3つそろえて消していき、場からコマを一掃するとステージクリアとなる方式だ。この類のゲームでは Bejeweled 3 という万人におすすめできる傑作があるものの、さすがにそれと比較しては手合い違いというものだ(ほら、定価が200円も違うし?)。ここで取り上げたいのは Wishmaster がどうしたゲームであるかという話であり、さらにいえばなぜこのゲームをプレイしたのちにブログを書く意欲が発生したかという話である。



ゲームモードはストーリーモードとタイムアタックモードの2種があるが、後者については触れるつもりはない。というのも、実際に触れていないからだ。タイムアタックなるものは得てしてそのゲームに熟達したものが挑戦を求めてプレイするモードであり、私はついぞその極みに達することなくこのゲームを終えたのである。
ストーリーモードではあなたは Wishmaster となり、先代の Master から受け取った Wishboard という装置をもって生者の世界と交信し、人々の「かけら」を集めることでその人の願いをかなえていく――要するに、その人物のアイコンが描かれたかけらを集める行為が3マッチパズルとして表現されている。そして1ステージをクリアして誰かの願いをかなえると、その願いが叶った姿が和製アニメ風(最近のインディー界では珍しくもないが)のボーナスイラストとして表示されるという展開だ。そして10人の願いを達成したとき、不死なる意識体である Wishmaster は自身の死という願いを叶えることができるという。つまり、10度のステージをクリアすることがストーリーモードのゴールなのだろう。だろう、というのもやはり私はこのストーリーモードを攻略し終えるにおよんでいないからだ。
コマが消える瞬間をうまく撮影できていないが、次に上の緑が落下して連鎖するのは見てわかるだろう
問題の核心はこの点だ。定価298円というチープなインディーゲームであるという前提をもってしても、このゲーム(のストーリーモード)は耐えがたい問題を抱えている。第一に、パズルゲームとしてのゲーム性が進めば進むほどつまらなくなる点だ。というのは、1ステージをクリアしてひとりの願いを叶えるたびに、新たにふたりの請願者が登場する、つまり1ステージごとにコマの種類がひとつずつ増えていくのだが、そのせいで難易度が上がる一方、序盤1,2ステージにはあったテンポの速さや連鎖の快感などの楽しさがどんどん失われていくのだ。他方でストーリーもこれといって強く興味を引くものではないし、このゲームはそうした問題に変わる楽しさを提供することに失敗している。
次に、これこそが問題の本質なのだが、ストーリーモードの難易度があまりに高いことだ。断っておくと、高難易度といってもチャレンジを楽しめる方向性ではなく、プレイヤーに理不尽を強いるだけの紛れもないクソゲーのそれである。というのも、このゲームでは強制オートセーブのためにコンティニューボタンがほぼ意味をなしておらず、手詰まりを繰り返してゲームオーバーとなると、コンティニューから再開しようとしてもそのゲームオーバー前の最後の1手から再開されるという謎の仕様となっている。アイアンマンモードのごとくやり直し一切不可のハードコア仕様しか用意していないのならまだわかるのだが、そんな熱い仕様はこのゲームのストーリーモードの緩い雰囲気にまったく似合わないし、もし仮にそうであればゲームオーバーになった時点でセーブデータを消滅させるべきで、コンティニューボタンが押せるから押してみたら残念、最後の1手からでした、という仕様は嫌がらせとしか思えない。嫌がらせでないとすれば、開発者はテストプレイをしていないか、パズルを極めすぎて開発時にこれはゲームオーバーが発生する難易度だとは思っていなかったのだろう。
わかる
願いを叶えられる対象となるキャラを30人以上も設定し、1度のクリア(10人?)ではコンプリートできない設計にして、それぞれにイラストと小話を用意したうえに、1プレイ中に登場するキャラクターもランダムにして、リプレイ性を高めつつ再チャレンジへのハードルを下げようとした努力は方向性としては正しい。3マッチパズルが性質として備える中毒性と相乗し、私もSteamトレーディングカードを排出するついでに数時間も遊んでしまった。悲しみはこうしたところに生まれる。なぜ開発者はテストプレイをしなかったのか、あるいはもう少しだけパズル下手じゃなかったのか。せめて問題の後者だけでも解決し、コンティニュー頼りでストーリーモードを進められるようにすれば、このゲームに対する評価はかなり変わっていたに違いない。チープなインディーに多くを求めてはいけないが、ほんの一点の問題を解決して全体的な難易度を下げるだけで、開発者になんの苦労がいるだろう。
ああ、私にもう少しパズルの腕があれば、もう少しの忍耐があれば、せめてストーリーモードをクリアしたいと思う程度には楽しめただけに残念である。世の中に無数に存在するインディーゲームを日々遊び続けている私の経験では、少し触っただけでこうした思いをいだくこともなくただ忘却のかなたに放り込むだけのゲームが大半であるため、遊べるゲームであればきちんと遊んでやりたいというのが本心からの願いなのだ。
無数のキャラクターたちの明かされるべき小話。設計の方向性は間違っていないのだ、方向性は
ともあれ残念な結果に終わってしまったゲームだが、なにせ定価が298円だし、すでにバンドルにも複数回入っている。皆さんもなにかの機会で入手されるようなことがあれば、少しぐらい遊んでみても損はしないかもしれない。損はしなくても私のように後悔が残る結果になるかもしれないが、ゲーム下手を自認する私などよりもゲームが上手い皆さんであれば、きっと理不尽に耐えて開発者の方の思いに応え、ゲームをクリアしてくれるはずだと信じております。

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