2016年5月23日月曜日

Stellaris は500時間遊べるゲームになるか?

今月10日に発売した Paradox 社による完全新規IPの新作 Stellaris だが、評判も売り上げもなかなかに上々のようだ。とくに Paradox 社本来のグランド・ストラテジー(いわゆるパラドゲー)の系譜を正しく継ぐ今作が、適当にパブリッシングをしていたらうっかり爆売れしてしまった Cities: Skylines の販売利益の記録を塗り替えたという事実は、いちパラドクシアンとしても感慨深い話だ。かくいう私も Steam のプレイ記録をみるに、すでに60時間も遊んでしまったらしい。その半分ぐらいはおそらく適当なマルチプレイなど散発的なプレイ時間だが、ともあれ一応シングルでのプレイを居住可能惑星の4割保持による勝利という形で1周きっちり遊び終えたので、このあたりで思ったところをまとめてみよう。

本題に入る前に、筆者はとくにSFやスペース・オペラなどの宇宙モノを好んではいないということを明記しておく。あくまでパラドゲーマーとして、純粋にストラテジーゲームを楽しむために Stellaris をプレイしたものだ。また、筆者は歴史好きではあってもとりたてて西洋中世史好きなわけではない一方で、パラドゲーの中でもっとも長く遊んでいるのは Crusader Kings II であり、そのうえ Elder KingsAfter the End など歴史性とは関係のない大型Modを導入してのプレイも楽しんでいる。これはつまり、バックグラウンドへの興味関心以前に CK2 の土台であるゲームシステムが根本的に優れていて、またそれが筆者の好みに合致している結果である。要するに、これからする Stellaris の話はあくまでグランド・ストラテジーとしてのゲーム性の話であるということを断っておきたい。


先に述べたとおり、Stellaris は由緒正しきグランド・ストラテジーの系譜を継ぐ正統なパラドゲーだ。グランド・ストラテジーとは何かというと、厳密には全プレイヤー同時進行式のターン制ストラテジーでありながら、ターンの最小単位を20年間における1時間、400年間における1日のように非常に細かく区切ることで、プレイしていてあたかもリアルタイム・ストラテジーであるかのような臨場感が感じられるという、パラドゲーが独自かつ伝統的に採用しているゲームシステムである。
しかしながら、本作は他のパラドゲーと大きく違う特色をもっている。それは未知の宇宙を舞台にしたことで、完璧な4Xストラテジーとして成立している点だ。他のパラドゲーは一般に史実を下地にしており、ストラテジーにおける4つのX――前回の記事でも触れたが、探検、(領土)拡張、(資源)活用、(敵の)殲滅、の4大要素――には部分的にしか対応していない。パラドゲーの中でもっとも4X的な Europa Universalis IV においても、新大陸全体の緯度が現実より少しばかり北に遷移していてブラジルへのアクセスが史実よりも容易になっている程度(豆知識です)の違いで、世界全体の地図は現実の世界地図とほぼ対応しているので(新大陸をランダム生成するDLCはいまいち評判がよくなかったりする)、探検といっても限定的なものでしかない。
一方で Stellaris は、ランダム生成される宇宙にプレイヤーであるあなた自身の国とAIが担当する国、あるいはマルチプレイであれば他のプレイヤーの国が、宇宙にランダムで配置されるいち星系のいち国家として同一の開始条件からスタートし、未知の宇宙を探検し(先行AI国の設定などあるにはあるが)、資源を集め、敵を殲滅し、領土を拡張していく、まさに4Xストラテジーそのものである点が今までのパラドゲーとは本質的に異なる。感覚的にはグランド・ストラテジーのシステムを用いた宇宙モノ Civilization と捉えてもいいかもしれないBeyond Earth...?)
デフォルト設定でスタートした直後の宇宙図(オブザーバーモードによる)
そこで問題として設定したいのが、Stellaris には500時間遊べるだけの強度があるか? という問いだ。パラドゲーや Civ シリーズをやらない人からすれば、なにをいきなり無茶な話を、と思われるかもしれない。しかしながら――同好の士にはいうまでもないことだが―― HoI2 や Civ4 などの旧作は、いまでもその中毒性が伝説として語り継がれている(いまだに遊んでいる人もいるとかいないとか)。筆者がこれらのプレイに費やした時間はもはや過去の記憶であり知るすべはないが、Steam と紐付けられている最近の作品(EU4, CK2, Civ5の3作)だけでも、どれも500時間は軽く突破したプレイ時間が筆者の Steam アカウントにエビデンスとして記録されている(まったく自慢できる話ではないですね……)
たまげたゲーム中毒だなぁ……
そこで、である。そこで、Stellaris にははたして500時間のプレイに耐えうる強度はあるか? 結論からいえば、現段階では答えは残念ながら否だ。

Stellaris は純然たる4Xストラテジーではあるものの、従来のパラドゲーにおける現実の歴史のように、あくまでスペース・オペラ的なバックグラウンドを楽しむことがゲームデザインの基礎にあり、Civ シリーズのような学習と勝利の過程に発生するカタルシスそのものを目的としたゲーム1ではない。そのことは Stellaris の長所でもあり短所でもある。たとえばわかりやすい例として、Stellaris には開始時に自分の宇宙帝国を好きにデザインできる機能があるが、これは実に Stellaris のゲームデザインとマッチしており、ゲームの魅力のひとつを構成している。ゲームの側から用意された材料を組み合わせて自分好みの帝国を作れるのは楽しいし、それをそのまま実ゲームに用いてごく自然に遊べるのは輪にかけて楽しい。しかしながら Civ シリーズであればこのような機能は不向きだろう。なぜなら Civ においては同条件でのスタートから難易度を徐々に上げて攻略していき、難易度を客観的基準として自分の腕前が上昇していく過程を楽しむ一面があるので、いわゆるプレイヤーチートにつながりかねないそのような部分はModなどで補強すべきで、 Stellaris ほど気軽にアクセスできては楽しみが台無しというものだ。このことからも、Stellaris Civ 式の楽しみ方からは一歩引いたところに向いたデザインであることがわかるだろう。
カスタム帝国の一例。ビッグ・ブラザーが(宇宙でも)あなたをみている
ゲームシステムの学習と攻略という観点でいえば、Stellaris の描く学習曲線は最近のEU4CK2、あるいは悪名高いHoI3など、序盤から険しい山が待ち構えているグランド・ストラテジー過去作と比べるとたいへん理想的なもので、緩やかながらもそれでいて低くはない山なりになっている。
開始時にどんな勢力でも固定で与えられる科学船・工作船・最低限の戦闘船団の3セット。Civ でいえば建設済みの首都に斥候・労働者・戦士がいるようなもので、Civ と違って常時なにかを生産し続けねばならないわけではない Stellaris では、初手生産に迷ったりせずにすむこの初期設定は大正解といえる。
まずやることは自星系の調査
親切なアドバイザーBotの助言に従い、まずは科学船で自分のスタート星系を調査しよう。すると星系から活用できるリソースの存在が明かされる。工作船でミネラルを支払い、資源回収施設を建てる。収入が増える。自星系の調査を終えた科学船は新たな星系の調査に送り出す。調査には時間がかかるし、なるほどアドバイザーの言うとおり、科学船を増築すればその分早く調査が進む。ミネラルを支払い首都惑星で科学船を建造する。そうして送り出した科学船が戦闘力100強の宇宙海賊や謎の宇宙生命体などと遭遇し、初期戦力は70前後しかない戦闘艦の増築が必要なことに気づく。このころにはミネラルが建造費、エネルギーが維持費の役割を果たしていることが自然と理解できている頃だろう。ここから別星系に最初の入植を果たすまでの序盤の流れは、おそらくこれまでのグランド・ストラテジーをまったく知らないプレイヤーでもすんなり入っていけるほどの易しさだ。その一方で技術開発や戦闘艦のデザイン、POP管理の最適化など学ぶべきことは決して少なくなく、序盤から学ぶ過程そのものを楽しみながら遊べるようになっている。このことは Stellaris のゲームデザイン上最大の成功点であり、発売当初から高い評価を得られた理由でもある。

しかしながら、500時間のプレイに耐えうる強度を目安とした場合、Stellaris はいくつかの問題を抱えている。まず4Xストラテジーでありながら、攻略・勝利そのものを目的としたプレイングには最適化されていないこと。ゲーム開始時に設定を変えることで難易度を上げることはできるが、そもそもゲームに習熟してオプションの項目の意味をよく理解できるレベルにならなければ適切な設定自体が困難だ。また、高難易度化の方法も人それぞれであるため、攻略それ自体には先述の Civ のような中毒性は生まれにくい。

そして現在のバージョンが抱えるゲーム自体の欠陥として、Stellaris は中盤以降の展開がだれる、というか、はっきりいっていまいち面白くない。現在のところ、勝利条件が制覇勝利と植民勝利(入植可能な惑星の4割に入植する目標で、AI数を思いっきり減らさない限り戦争はほぼ必須)の2種しかないうえに、制覇系勝利につきまとう、ある程度勝ち筋が見えてくると飽きてくるというありがちな問題を回避しようとする努力があまり感じられない。
戦力29k対23kの美麗な艦隊決戦。この頃が一番面白い
またそうした設定に加えて、ある程度は技術差よりも物量がモノをいう戦闘バランスのため、中盤は植民スパムによるリソース・生産ブーストが最適解となっている。直轄星を5つとごく少なく制限し、多すぎる惑星を管理委任するためにセクター制度を導入したことは試みとしては正しい。しかしセクターを管理するAIの頭が悪いので、星系を一時的に直轄領に編入して建物を建て替えるなど適宜調整する必要が出てきたりする(このために影響点をいちいち消費するのは最適化の代償としてはありなのかもしれないが、ゲームデザイン的にまったく美しくない)。それから、物量押しの一環としてセクター管理下の惑星に直接アクセスして生産指示ができるというのはどうなのか。それであればセクター惑星のPOPの管理も自由にできればいいのにと思ってしまうし、どちらかに統一すべきではないか。そのうえUIが未成熟で、星系一覧からの生産キュー追加やテンプレート一括生産などもできないので、セクター下の惑星を最大効率で活用しようと思うとマップから星系をひとつひとつクリックしていくような無駄な作業に追われることになる。システムを理解すればするほどストレスが溜まるというのはゲームデザイン上大変不健全だし、500時間の壁に向き合うにあたって現状の Stellaris が抱える致命的な欠点といえる。
ここまで来るともはやなにがなんだかわからない
おそらくこうした点は私などが指摘するまでもないことで、開発日記などでもすでに一部が示されているが、これからのDLCを伴う更新で改善されていくのだろう。例えば CK2 のゲーム中盤に発生するモンゴルやアステカSunset Invasion, 私は好きですよ)の侵略がもたらす緊張感のように、後半のAI反乱や別次元からの侵略者などの危機イベントをさらに拡充し、ただ対処が面倒な理不尽としてではなく、退屈から解放してくれる挑戦にする。同時にUIを洗練されたものに改善し、星系数の増える後半も無駄な労苦を強いられることなく楽しく遊べるようにする、といった更新が望まれる。
現状ふたつしか用意されていない勝利条件についてはどうか。たしかに異文化きわまる異星人たち相手に文化勝利や科学勝利などと勝利宣言するのもなんだかアレだが、外交勝利ぐらいはあってもいいのではないか。あるいはもっと別の何か――とにかく生産・入植スパムする以外の遊び方を中盤以降に用意してほしいものだ。

しかしながら、この程度の問題は CK2 EU4 のDLC発売ペースであれば1,2本のDLCで追加・改善が終わるところだが、こうした点が改善されたとして、それだけで突然500時間分の強度を得られるか? そう考えると実に微妙なところだ。あるいは(DLC発売までは一般に評価の低かった)Civ5 のように、UI改善を含みゲーム性を一新する大型DLCを展開することもできるかもしれない。ここから先はもはやゲームデザイナーの考えることで、筆者の乏しい発想が及ばない範囲である。パラドゲー史上最高のスタートを切ることができた Stellaris だが、これが100時間で完結するゲームで終わらず500時間、1000時間と楽しめるゲームに育つかどうか。すべてはこれからの開発陣とユーザーのフィードバックにかかっている。筆者はいちパラドクシアンとしてその成功を祈念するものである。



1: 他にはEU4の琉球WCのような高難易度実績への挑戦など、このような受容のされかたをする傾向のあるストラテジーを私は個人的に「競技ストラテジー」と呼んでいる

1 件のコメント:

  1. 1000時間越えは当たり前のゲームになりましたね・・・

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