2016年4月22日金曜日

革命の熱狂をリアルに描く 1979 Revolution: Black Friday

めったに新作を買わない買えない筆者の貧乏のため、当ブログではあまり機会がないであろう発売したての新作ゲームの紹介だ。なぜ珍しく新作を発売日に買って、それも一月と積まずにすぐにもプレイしたかというと、それはやはりこの作品が革命を扱ったゲームだからという他ない。

1979 Revolution: Black Friday は1979年前後の革命期イランが舞台のアドベンチャーゲーム。プレイヤーはドイツへの留学(?)から革命勃発直前の故郷イランに戻ってきた青年として、彼の得意なカメラを通して革命の熱の高まりに巻き込まれていく。


イラン革命といっても日本ではあまりなじみのない話かもしれない。せいぜいが時のシャーによる強引な白色革命が宗教的反動を呼び、ホメイニー師の台頭につながったという程度だろう。しかし、いくらインディー作品とはいえ、ことは洋ゲーである。20世紀のネオコンの妄想のようなシナリオ作りからいまだに脱却できていない欧米ゲーム市場において、アメリカがその維持に公然と力を注いだ体制を打倒した革命を正面から描いた作品を売り出すというのは大変なことではないだろうか。ご存知だろうか、この作品の当の舞台であるイランはインターネットの規制によってか Steam にはアクセスすることすらできないのだ1。となれば、この作品が世界のどこに向けて作られたかは自明であろう2

ゲーム性は The Walking Dead など Telltale Games のアドベンチャーゲームのそれに近い、といって伝われば話は早いが、要するに見たとおりの3Dの世界を歩き回り、人々に話しかけたりしてイベントを発生させたり、ところどころで会話や動作の選択肢を選ばされるアドベンチャーゲームである。Telltale のそれと同じくプレイヤーの選択が話の本筋を動かすことはないが、要所要所で自分の意思で主人公の行動を選択することが物語への没入感を高める役割を果たしている点は共通している。しかしながら、Telltale のそれはしょせん架空の物語であるのに対し(私も WD などは大好きではありますけどね)、こちらは現実の歴史上の大事件を題材にした物語である点を考えてもらいたい。何十万もの民衆が街頭に出て弱者の救済と殉教の尊さを叫ぶとき、国王の軍隊が自身の国民に対して銃を放つとき、群衆のひとりでしかないあなたに確かな意志があったとてなにができよう。選択を強要するわりに物語がたいして変わらない、とは Telltale 作品についてまわる批判だが、1979 でそれはどうか。主人公はあくまで大きな物語における路傍の石にすぎないのであり、それでもその中で小さいながらも自らの意志をもって動いているのだ。この違いは実に大きなものだ。
「これがイランの未来だ。俺たちの未来だ!」
なによりこのゲーム最大の魅力は、革命の熱を実によく描けている点だ。これは遊んでいて本当に強く感じる。主人公はたまたまカメラを得意としていたため、運動に参加する友人に誘われて街頭の様子を「事実の記録」として撮影することになるのだが、歴史的事実に基づいた街頭の描写にはとてもリアリティがあり、劇中の主人公のようにプレイヤーも自然と革命に入りこんでしまう。プレイヤーが実際にカメラを動かして、なんでもない風景から決定的な瞬間までを自分の意志で撮影できる機能もまた舞台装置としてうまく働き、プレイヤーが物語に入り込む一助となっている。
友人にうながされて写真を撮っているうちに事実の記録者としての自覚がめばえる
物語の基本的な性格として、ドイツ帰りで西側的な感性をもち、当時のイランに発生していた事象についての知識もほぼないナイーヴな青年が革命の波に翻弄される話なので、主人公同様にイラン革命の背景について知らなくてもゲームのプレイ自体は問題なく遊べるだろう。とはいえ、主人公でも知っている1978年の情勢、例えば当時のパフラヴィー朝シャーが主導した強引な白色革命による貧富の差の拡大といったアウトラインから、死者400名を数える9・11以前の史上最大のテロで、SAVAK(秘密警察)の犯行として民衆の大きな反感を買っていた(実際の犯人は今でも不明)レックス映画館放火事件のような重要な事件などについて、プレイ前にある程度の歴史の予習はしておいたほうが楽しみやすいとは思う。詳しい話はゲームを1周し終えた後にでもイラン現代史の本を読んでみれば、宗教穏健派から共産主義ゲリラまでからんだ当時の複雑なイラン革命情勢が格段に理解しやすくなっているはずだ。

個人的に感じたこのゲームの問題点として、「歴史」に対する政治的態度の問題がある。Telltale のゲームと同じく、ゲーム中の選択はゲームの体験を鮮明にするもので、ゲームの展開を変更するものではないということは先に述べた。問題はここだ。
ゲームの開始時点は1980年、つまりさまざまな勢力が入り乱れたイラン革命がホメイニー師の勝利に終わり、イラン・イスラーム共和国が成立した時代である。主人公はそこで現体制の警察に捕まり、悪名高いエヴィン収容所に送られて尋問されることになる。主人公がその尋問中に思い出している過去こそが1978年のイランであり、このゲームのメインパートである。つまり、主人公の運命は最初から決まっており、プレイヤーがゲーム内でどのような選択を取ろうと、例えばどれだけホメイニー師に忠実であろうとしても、革命後には反革命主義者として弾圧される未来しかないのだ。これだけはどうしても不満な点として指摘しておかねばならない。
定価1180円とはインディーゲームとしても安価なほうだ。では安価なインディーにそこまで求めるべきではない? いや、個人的には単純に定価をその倍以上に設定してもかまわないので、政治的選択というデリケートな問題についてもう少し選択肢を増やしてほしかった。あるいは開発者はアメリカ在住のイラン出身者とのことで、現体制に思うところがあっての意図的なことかもしれないが、とにかくプレイヤーとしてはここだけが残念なところである。
もうひとつ、現時点(2016年4月22日)ではコントローラー操作に対応していない点も指摘しておかねばならない。Telltale のゲームでは、時間制限のついた選択肢を選ぶ際において、コントローラーのボタン押下による選択は明らかにマウスクリックよりも直感的に操作でき、英語がそれほど得意でない筆者としても時間制限下の判断の余裕が断然違っていた。この点こそは安価なインディーだから諦めるべきことかもしれないが、実際にフォーラムではコントローラー対応を求める声も多く、売り上げにも直結しそうな問題である。開発者がフォーラムでの返答で将来的にはコントローラー操作に対応する予定を明言しているので、問題は時間が解決してくれそうではあるが、コントローラー対応でなければ買わないという層もそれなりにいるため、それで初動の売り上げを逃してしまったのは開発者としても痛かった話なのではなかろうか。
時間制限があるとこんな単純な英語でも読みづらくなってしまうのは筆者だけだろうか
長くなってしまったが、はっきりいってこの値段のインディーゲームとしては驚きのクオリティである。あまり急いでプレイせず、オブジェクトをひとつひとつ見て回った筆者の場合、ゲーム1周に4時間程度を必要とした。これだけですでにアドベンチャーゲームのコストパフォーマンスとしてみても良好だ。(何度も名前を出してしまってアレだが)Telltale などのアドベンチャーゲームを楽しめて、歴史好きを自認する人であれば、必ずやお値段以上の体験をできるはず。現時点での2016年度マイベストインディーゲーム賞内定作。おすすめ。

1979 Revolution: Black Friday ¥1,180
1:  Steam ダウンロード統計 を参照。ネット規制で有名な北朝鮮やキューバなどと並んで利用量が0バイト
2: 一応GOGなどがDRMフリー版を販売しているが、厳しいネット規制のため実際にイラン国内から買えるかは不明

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